このページは、フォールディングカヤック、スキンカヤック、Delphinaについて書きましたが、内容は絶対に必要な知識や情報ではありません。
ご興味のある方は、お時間に余裕のある時にお読みください。
Folding Kayakの魅力
フォールディングカヤックとは、文字通りたためるカヤックのことで、たためば専用のバックパックに収めて運ぶことが出来るカヤックです。
これを住宅事情などを理由に選ぶ人もいます。もちろんそれも悪くはありません。しかし、Cetusが海でフォールディングカヤックを使うのは、それが理由ではありません。
- キャンプ道具を積んで何日も旅のできるようなカヤックが、車がなくても運ぶことができ、宅配便で送ることもできる。
- 飛行機・船・電車・バスなどを使って、何処へでも慣れ親しんだ自分のカヤックを持って行くことができる。
- 上陸地点でたたんでしまえば出艇したところへ戻る必要がなく、ワンウェイのパドリングトリップができる。
これで想像力が刺激されないようなら、楽しみ方は人それぞれですから無理にフォールディングカヤックを薦めようとも思いません。
しかし、私は行きたいところへバッグに収めたカヤックを持って行き、そこから漕ぎ出せることを非常に楽しく感じ、行き着いた先でまたカヤックをバッグに収め、帰りはカヤックを送ってしまい、身軽になって帰えれることをまた楽しく感じます。
こんなスタイルが最も好きなカヤックの遊び方で、それを楽しんできました。
スキンカヤックとフォールディングカヤック
最古の乗り物=カヌー(小舟)は、世界各地で各々の環境に応じた様々な形で誕生しています。製法としては、葦を束ねる、木の皮を木で作ったフレームの上に剥ぎ合わせるなどもありますが、丸太で筏を組んだり丸太をくり抜くなどが最多数派ではないかと思います。
そんな中、かなりユニークなのがカヤックの製法です。カヤックは、木の生えていない極寒の極北の地方で生まれた乗り物ですが、少ない材料を工夫して使い、海から流れ着く流木でフレームを組み、その上にアザラシなどの皮を張って作られていました。スキン-オン-フレームです。
他の地域にもスキン(動物の皮に限らず)-オン-フレーム製法のボートはありますが、カヤックをさらに独特なもにしているのはその形態です。ご存知の通り、人が乗るところだけ穴が開いていているあの形です。フレームはハル(ボトム)側だけでなくデッキ面にもあり、人が乗るところ以外はデッキ全面スキンで覆い、高さが低いのに波を被ったり波に突っ込んでも船体内に浸水しない構造、冷たく荒れた海へ適応するために生まれた形態です。
材料・構造・形、全て極寒の地だからこその組み合わせで、この環境がこのユニークなボートを生み出したのだと思います。ダブルブレードのパドルも世界的には少数派ですが、この形態のボートは極北の地域以外では生まれていなかったと思います。
カヤックの主な用途は海獣類の狩猟目的だったようですが、その後カヤックはヨーロッパに伝わり、スポーツやレジャー用として発展しました。そして、基本的な形は受け継ぎながらも製法と素材は大きく変化し、FRPコンポジットやポリエチレンのロトモールド製法が主流になりました。フレームがなく外皮自体が構造体となる製法です。スキン-オン-フレームの元々のカヤックの構造を脊椎動物と例えるなら、それはカニなど甲殻類のような構造といったところです。
そして、FRPコンポジットやポリエチレンのカヤックをシェルカヤックとでも呼べば良いとも思いますが、多数派に負けたような形なのか、主流となったFRPコンポジットやポリエチレンのカヤックと区別する上で、カヤック本来の姿であるスキン-オン-フレームのカヤックがその後にスキンカヤックと呼ばれるようになりました。
このような経緯を知らないと、フォールディングカヤックはたたむために考案された構造と勘違いする人もいるかもしれません。しかし、フォールディングカヤックは元々のカヤックの構造を受け継ぎ、フレームを分解できるようにしたカヤックです。言わばスキン-オン-分解できるフレームなので、組み立て分解のできるスキンカヤックです。
また、素材は流木と海獣の皮ではなく、木やアルミ合金のフレームと防水生地に変わりましたが、フォールディングカヤックは形だけでなく、構造的には元来のカヤックを踏襲していることになりますので、カヤックの正統派の進化系とも言えます。
そして、構造と形との間には密接な関係があり、外形というのは構造に適したものへと進化して行くのだと思います。本当はスキン-オン-フレームこそ、この形に最も適した構造なのではないかとも考えられます。
よって、スキンカヤックこそがカヤックと、構造や乗り心地に拘ってスキンカヤックに乗る人もいます。
逆に「ファルト(フォールディングカヤックのこと)嫌い」な人、カヤックはたたむ必要などないと言うような人もいます。
私は、妥協ではなくフォールディングカヤックの乗り心地も気に入りはしましたが、スキンカヤックであることに拘ってフォールディングカヤックを選んでいるわけでもありません。
自分のカヤックをたたんで色々なところへ持って行って乗りたいからとういうのが、フォールディングカヤックを選ぶ一番の理由なので、たたむ必要などないと言われても困ります。
しかし、シェルカヤックにも良いのがあるので、FRPコンポジットやポリエチレンのカヤックを否定などしません。
シットオントップカヤックはカヤックではないと、否定的な人もいますが、私はシットオントップカヤックもユニークなカヤックの進化系統の一つと思います。
好みは人それぞれ、他を否定するのは良いこととは思いません。大切なことは、自分のやりたいことに合っているかどうか、そして、それができる性能を備えているかどうかだと思います。
Delphina誕生の経緯
最初にお断りしておきます。
この項目は結構長くて、Delphinaに関する他のページを読んでいただければ十分で、あまり重要な内容ではありません。また、誤解を招く可能性のある内容も含まれています。
しかし、斜め読みして余計な誤解をされるのも困ります。お読みいたけるのであれば、斜め読みせず、お時間のある時にじっくりお読みください。
ここをクリックすると内容が表示されます
CetusはカナダのFeathercraftというフォールディングカヤックの専門店を20年以上続けてきました。もちろん自分自身もそのカヤックをとても気に入って愛用するヘビーユーザーでした。
しかし、残念なことに2017年にFeathercraftは製造を中止してしまいました。だからと言って、代わりに妥協して他の何かを売ろうという気にもなりません。
一方、その数年前頃から本格派の長距離ツーリング用インフレータブルSUPボードが登場し、登場直後からいち早く目を付け、その可能性を見出していたCetusは、フォールディングカヤックで培ったノウハウを活かし、インフレータブルのツーリングボードを使った長距離の海の旅(フォールディングカヤックのような楽しみ方)に、本腰を入れて取り組み始めていました。
なので、これを機に全面的にSUP専門に切り替え、カヤックから手を引くことも考えました。
また、カヤックガイドという商売(仕事)があります。Cetusもフォールディングカヤックならではのワンウェイのワンデイツーリングから、数日かけて廻る遠隔地のキャンプツーリングまで、ツアーは色々やってきました。
しかし、Cetusがカヤックに関わる仕事で重点を置いてきたことは、ツアーでお客さんをどこかに連れて行くことではありません。
それが何かと簡単に言えば、自分が味わってきたのと同じような楽しみ方をしてもらうこと、すなわち自分の力で自由に海を旅することです。
Cetusのツアーはその後に自分自身で楽しんでいただくための予行のような意味合いも含めてやってきました。
自分と同じような楽しみ方へと導くことが「海の旅の楽しみを伝える仕事」と考えてカヤックを販売してきたので、似たように見えてもスタンスや方向性が全く異なるガイド業に鞍替えする選択肢も全くありませんでした。
話が戻りますが、カヤックからは手を引きSUP専門になることも考えました。
しかし、やはりカヤックにはSUPとはまた違ったカヤックならではの魅力も多々あります。
そして、Feathercraftを専門的に扱っていたとはいえ、自分が気に入ったカヤックを販売していたまでで、特定のメーカーの商品を販売する義務や特別な縛りがあったわけではありません。
やってきたことはフォールディングカヤックを使った海の旅の楽しみを伝える仕事です。
そう考えると、Feathercraftがなくなったことが理由でライフワークのようにやり続けてきたことをやめるというのも納得がいかないというか、無責任なのではと考えました。
しかし、当然ですが自分の力で自由に海を旅するには、レンタルではなく自分のカヤックが必要です。となると、Feathercraftに代わる自分が納得の行くカヤックが必要になります。
最初の方で「代わりに妥協して他の何かを売ろうという気にもなりません。」と書きましたが、一応改めて色々調べ直してみました。
しかし、欧米のメーカー・ブランドなどは、名が売れるとブランドや会社自体が買収されたり、大きな企業の傘下に入ってしまうのはよくあることです。
多くのアウトドア用品やカヌー・カヤックのメーカーも然りです。
北米のカヤックメーカーの殆どはガレージや裏庭で作ったような物が始まりで、昔は各々に個性やストーリーやポリシーがありました。しかし、現存するブランドの殆どは名前だけが残り、もう誰の作ったものかわからない、ハッキリ言ってしまうと個性のないつまらないものに成り下がってしまったものばかりが目につきます。
Feathercraftはそうならなかった稀有な例の一つでもありましたが、継続できなかったのが結果です。
このように欧米のカヤックメーカーは身売りするか潰れるかといったようなイメージが強く、結局深入りしたくないものばかりです。
ならば自分で作ってしまおうと考えました。
最初は0からオリジナルのカヤックを作ることを考え、色々模索したり調べたりしました。
その結果判ったことは、Feathercraftと同じかそれ以上に満足の行くものを作ろうと思ったら、もの凄いエネルギーと私にとっては巨額の投資も必要となることでした。アイディアや情熱だけでなんとかなるものではありません。
そこで次に考えたのが既存のメーカーへの製作依頼です。
隣の大陸のメーカーからは、「オリジナル商品を作らないか?」といったオファーがよく舞い込みます。
しかし、そういったメーカーは、自分達で商品開発をしたのではなく、元は欧米のブランドから依頼で技術供与を受けて製造した商品をコピーし、そのままラベルを張り替えて売るだけのような、はっきり言ってえげつないことをしています。
また、油断をしていると自分達のコストを削減するために手を抜くようなこともするので、品質的にも信用できません。
色々な意味で全く信用ならないので、やはり問題外です。
また、大部分がメーカー毎に異なる独自のパーツを使って組み上げられているフォールディンカヤックの場合は、パーツの供給が途絶えてしまうことが致命的となります。
フォールディングカヤックは手の込んだ製作工程を経ているので、高価な商品です。それなのに修理が不能で長く使うことができなくなってしまうようでは、一番迷惑を被るのはユーザーです。継続力のあるメーカーでなければなりません。
どんなに良いものを作っていても、やめられてしまっては意味がありません。
こちらもこの二の舞を踏むわけには行きません。
製品の理想を追いかけるだけでなく、身売りせず、作っている人の顔が見えて、余計なビジネスマン(日本で言うネクタイを締めたサラリーマンのような意味ではなくて実業家のような意味)が介入せず、継続力のあるメーカーを選ばなければなりません。
物作りの技術には長けていても、実際にはカヤックに乗らないような人は、重点を置くポイントが全くズレたりしてしまうので、そういったメーカーもダメです。
こうしたことを踏まえて選んだカヤックメーカーがフジタカヌーでした。フジタさんとは旧知ですが、CetusはFeathercraftとの関係が深かったため、特別親しいお付き合いをしてきたわけでもなかったと言うより、どちらかと言えばライバル的な関係でした。
しかし、何故フジタカヌーを選んだかと言えば、世界的に見ても老舗のフォールディングカヤックのメーカーで、Feathercraftよりずっと古いメーカーなのに存続し続けていること、そして、カヤックのことを深く知らないビジネスに専念しているような人が経営している会社ではなく、カヤックに乗る人がカヤックを作り、直接会社の運営もし続けているメーカーだからです。
同じ人がではなく、正確に言えば親子二代に渡ってということになりますが、2人ともカヤッカーであり、カヌー職人です。これは凄いことです。こんなカヤックメーカーなど他に見当たりません。
フジタカヌーを選んだのはこういった理由からですが、こちらが勝手に選んだだけなので交渉を受け入れてもらえるものか、全く確証などありませんでした。
しかし、ともかく直接会って話をしてみようと思い、初めて京都の山奥(失礼)にあるフジタカヌーを尋ねてみることにしました。
余談ですが、私は初めてでしたが、競技カヌーをやっていた私の妻は、学生時代ここでカヤックインストラクターのアルバイトをさせてもらっていました。
伺った目的をざっと説明すると、二代目は熱心に色々と詳しく説明してくれて、説明に誤魔化しや矛盾がなく、やってもらえるならフジタカヌーに自分のカヤックを作ってもらおうと決心が固まりました。
最初に工房にお邪魔し、相談に行った時は、既存のモデルとは全く別のモデルの製作を依頼することを考えていました。
しかし、その時工房で見かけたALPINA-1 450は見るからに乗りやすそうで扱いやすそうなカヤックでした。ALPINA-1 450の存在はもちろん知っていましたが、それまでFeathercraftにばかり乗っていたので、正直に白状するとあまり詳しいことは知りませんでした。
既存のモデルとは全く別のモデルを作ってもらうことより、何よりまずはしっかりフジタカヌーを使ってみなければ始まりません。暫くALPINA-1 450をお借りして試してみることにしました。
試すに当たって判断基準となるようなものが必要になりますが、それまで最も多くの人にお薦めしていたカヤックは、Feathercraft WisperとKahunaで、自分自身もこの2つを最も多用していたので、この2つを基準に判断することになります。
- Kahunaはこれぞスタンダードと言った感じの性質のカヤックです。
- Wisperは、僭越ながら私の意見を大きく取り入れてもらい、形やサイズ、ラダーを付けられない設定にするなど、ほぼ私の考えていたコンセプトに沿って誕生したカヤックです。
しかし、そんなWisperも艤装やその他の装備品、細部の作りなどの構造的な部分に関しては他のFeathercraftと特に変わったところはなく、その他細部の作りなどにも不満はあり、Kahuna・Wisperの全てに満足していたわけではありません。
ALPINA-1 450は、フレームの細部の作りなどに関してはFeathercraftで感じていた不満要素がかなり解消されていて、大変良い印象を受けました。
組み立て方はFeathercraftとは根本的に大きく違うため、どちらが組み立てやすいとかではなく、慣れるのに少し時間を要しました。あまりにFeathercraftに慣れてしまっていたため、正直に言えば現在も個人的にはFeathercraftの組み立ての方が体に馴染んでしまっています。
しかしこれは慣れの問題なので、最初からフジタカヌーの組み立てに慣れてしまった人には、逆にFeathercraftは非常に組み立てにくいと感じる人もいるのではないかと思います。
そして、初めて乗ったALPINA-1 450の乗り心地は、当然と言えば当然ですが、Kahuna・Wisperのどちらとも違うものでした。しかし、見た目の印象通り大変乗りやすく扱いやすいカヤックで、個性は違えど性能的にはKahuna・Wisperと同格と感じました。
そして、Kahuna・Wisperより良く言えばクセがない、悪く言えば個性の感じられない乗り心地で、例えばリジットのカヤックの乗り心地に慣れている人なども含め、こちらの方が多くの人が馴染みやすく感じるのではといった印象を受けました。
失礼ですが、正直言ってこんなに良いとは思っていなかったので、目から鱗の落ちるような思いでした。
「ALPINA-1 450は、Kahuna・Wisperに代わって活躍してくれる実力を十分備えたカヤック」が試してみた結論でした。
そして、0からオリジナルデザインのカヤックを作るとなると相応の初期投資も必要になり、コストがかかります。コストが上がって手の届きにくい商品になってしまうようなことも望んでいないことでした。
ならば、これまたKahuna・Wisper同様良くも悪くも艤装などに関しては凡庸なALPINA-1に、自分の経験を基にしたアイディアを盛り込み手を加えれば、理想とするカヤックにかなり近いものが作れるのではないかといった考えに至ったわけです。
以上がDelphinaの誕生の経緯です。
Delphinaはかなり自分の理想に近いカヤックに仕上がっていますが、まだ完璧ではありません。Delphinaの方がFeathercraftより良いと思っている部分は沢山ありますが、長年の使用で個人的に馴染んでしまっているせいもあり、Feathercraftの方が良かった思う部分もなくはありません。FeathercraftもDelphinaもパーフェクトではありません。
Delphinaはこれからも進化して行くカヤックです。